続・くろがねの姉妹(金剛、比叡)

ヒジハラ

シーメンス事件は海軍高官がヴィッカース社とシーメンス社から軍艦建造に関してリベートを取っていたという大汚職事件です。
シーメンス事件というものの、実際にはヴィッカースの方が深刻で、本来ならヴィッカース事件と呼ぶ方がふさわしいだろう。

金剛の建造をヴィッカース社に発注させる為、ヴ社から三井物産を経て艦政本部長松本和に40万円のリベートが渡っていた。
艦政本部は造艦及び造艦技術部門を監督する海軍の重要官衙です。艦政部長はそのトップ。
また当時の40万円は現在ですと大体10~11億円位でしょうか。
松本和は海兵7期、島村速雄クラス。ということは加藤友三郎ともクラスです。

事件には関係者が複数おり、そのひとりが磯田道史『武士の家計簿』に出ております。
この本を読んだとき私は本当に驚きました。
映画になった際、加賀藩士猪山直之という人物を堺雅人が演じていました。
その子供成之が経理事務の才能を認められ、大村益次郎にヘッドハンティングされた。
明治初期から海軍の会計を勤めており、そこから一族が海軍で生きる道を見つけたようで子供と甥が、直之から見ると男孫全員が海軍に奉職しています。

成之の子、猪山鋼太郎は海兵17期で、秋山真之のクラスになります。
そしてこの鋼太郎の従兄弟が沢崎寛猛という人物。
艦政本部部員であった沢崎大佐はシーメンス事件の際に三井物産から多額の収賄を受けたという罪で懲役刑を受けている。
まさかこの内容の本で秋山の名前やシ事件を見るとは思っておらず、本当に驚きました。

そしてこの事件では艦政本部第4部長であった藤井光五郎(てるごろう)機関少将も逮捕されています。
藤井、広瀬武夫の書簡にも名前が出てるんですよねえ…

藤井の兄は陸軍の藤井茂太。我が兵庫の産である。
陸大1期生で、同期に秋山好古、長岡外史、東條英教(英機父)、井口省吾等がいます。日露戦争時の第1軍の参謀長であった。

シーメンス事件は山本権兵衛内閣時の議会中に発覚した事件であり、この内閣は当時巨額の海軍予算(建艦費を含む)を議会に提出していた。
勿論予算は大幅カットとなり、挙句の果てに内閣が倒壊してしまった。

藤井の兄ちゃんは事件とは無関係ですが、実弟が関係していたという点に道義的責任を感じたようで、陸軍に進退伺を出しています。
そしてそれが受理されている。
藤井茂太自身もこんな形で陸軍を去ることになるとは思いもしなかったでしょう。
さぞ無念であっただろう(陸大1期生たち~#4)。


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(寺内正毅宛藤井茂太書簡/T3/8/18)


金剛は日本が海外に発注した最後の軍艦になります。
姉妹艦の比叡は日本が買い取った金剛の設計図を基にして、海外で製造された主要部品を日本で組み立てるという、いわばハーフ。
そうした折角の艦が、門出の際に酷い味噌が付いてしまった…


そんな比叡ですが、息が長くてですね、大正3(1914)年竣工~昭和17(1942)年11月の第3次ソロモン開戦で沈没するまで、28年艦籍があった。
この間、建艦競争による造船技術の進歩があり、また海軍軍縮があり、金剛型の軍艦はかなりの改装を重ねています。
比叡は海軍軍縮の煽りを受けて、練習艦となり、また御召し艦となり…
早々に第一線からは外れていく。
昭和11(1936)年のロンドン海軍軍縮条約失効後に改装されもう少しグレードが上がるのですが。


IMG_6545.jpg 


井上成美は比叡を愛した海軍軍人のひとり。
昭和8年11月から1年8か月比叡の艦長を勤めていましたが、井上曰く、
「わたしの海軍での生活の中で一番よかった時で、一番楽しかった時」(『最後の海軍大将・井上成美』)
軍務局長に就任した際には執務室に比叡の油絵を飾っていたそうです。

井上は昭和10年11月に横須賀鎮守府参謀長となります。
この時の横鎮司令長官が米内光政でした。
昭和11年2月26日、83年前の今日起きた2・26事件の際、横須賀から東京の動静を注視していたのもこのコンビで、
「陸軍が皇居を占領するようなことになったらどうするか」
との米内の問いに、
「そういう事が起こったら陛下には比叡においで願いましょう」
と井上は答えています。比叡は御召し艦ですからねえ。

米内光政 


ただ昭和天皇が
「朕が股肱の老臣を殺戮す、此の如き凶暴の将校等、其精神に於ても何の恕すべきものありや」
と青年将校らの決起に激怒し、鎮圧を厳命したことからそうした事態にはならずに済みましたが。

大東亜戦争で比叡がどういった戦場に参加し、どういった経緯を辿って沈没したかは、私は分かりませんので他に譲ります。
ただ深海で発見されたということについては、やはり色々と思う所がありますねえ…

***

2月26日ということで、今日は2・26事件の日でした。
内大臣斎藤実、蔵相高橋是清、陸軍教育総監渡辺錠太郎、総理秘書官松尾伝蔵の御命日になります。

・斎藤実、高橋是清:弾丸は降り注ぐ雨の如く
・鈴木貫太郎:鈴木貫太郎の昭和 ・ 筋金入り
・岡田啓介:find out
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